「何故歌うのかって?そうね、きっと夜明けに鳥が鳴いて、自分の居場所を知らせるのに似ているかも。そう、私は今ここに居るのよって」明晰と言えばこれ程はっきりとした歌う理由はないだろう。そんなリンダの伝記映画を観た。声量に恵まれながらも自分に自信が持てず、ポップ/ロック部門で大成功を収めつつも、両親との死別を機にジャズ・スタンダードやメキシコ歌曲といったルーツに立ち返っていったリンダの半生が上手く纏められていた。僕が彼女に夢中になっていた人気絶頂の70年代に関しても、リンダは冷静に振り返り、ロックンロール・ライフの危さや男性優位のショウビズの世界を語っていたのは象徴的だ。「もうアリーナでは歌いたくない。ギター・ソロの音量に耐えられないの」
それにしても圧倒的な歌唱力を持っていたリンダが、母親と同じパーキンソン病に冒されるとは何と残酷な運命だろうか。自分のことで恐縮だが、病になってからやっと彼女の苦悩が解ったような気がする。君は考えてみたことがあるかい?自分の居場所を知らせる鳥が、朝になっても最初の歌を歌えないことを。