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パーシー・スレッジとフィル・ウォルデン

「1966年の爽やかな南部の日、オーティス・レディングと私は時代遅れの飛行機に乗っていた。空港にはまだエアコンがなく、単純で不安定な送風機だけが唯一の涼しさを運んでいた。そう、私たちはメンフィスからマスル・ショールズまでやって来たのだ。リック・ホールが認めた新しいシンガーを聞くために。その歌手がパーシー・スレッジだったのさ」
フィル・ウォルデンのそんな回想が裏ジャケットに記されているのが、パーシー・スレッジ74年のキャプリコーン盤『I'll Be Your Everything』です。アラバマ生まれで、ジミー・ヒューズを従兄弟に持つ彼は、60年代に記念碑的なfame録音「男が女を愛する時」を始め、「ウォーム・アンド・テンダー・ラブ」「イット・ティア・ミー・アップ」「アウト・オブ・レフト・フィールド」などのR&Bヒットで一世を風靡しましたが、70年代になってからは暫くブランクに入ってしまいます。そんなパーシーにカムバックの手を差し伸べたのが、旧知のフィル・ウォルデン(オーティスのマネジャー、キャプリコーン・レーベルの設立者)だったのです。
フィルは本作で名手クィン・アイヴィをプロデューサーに立てました。アイヴィはマスル・ショールズのスワンパーズ(ジョンソン/カー/フッド/ホウキンス/バケット)をセッティングし、またマーク・ジェイムズ、ジョージ・ソウレ、ラリー・マレイ、フィリップ・ミッチェルといったソングライターの素晴らしい楽曲を揃えました。
さて、パーシーは決してガンガン押していくシャウターではなく、アーサー・アレキサンダーやアル・グリーンのように喉元でじっくりと歌を温めるタイプのシンガーですが、そんな彼の資質が本作の"カントリー・ソウル"的な楽曲と見事にハマっている点を特筆したいと思います。演奏面ではピート・カーの色艶あるリード・ギターが出色ではないでしょうか? 恐らくリズム・セクションをマスル・ショールズ・サウンド・スタジオで録った後に、同じマスルのブロードウェイ・スタジオや、ナッシュビルのクォードフォニック・スタジオまで足を伸ばしていったのでしょうが、そうした柔軟なアプローチがアルバムの完成度を一際高めているような気がします。
ディスコ風のフロント・カバーの悪印象もあり、サザン・ソウルの愛好家たちからは軽く見られがちな作品(時価880円!)ではありますが、実は南部の芳香に満ちた隠れ名盤なのです。
*このテキストはFBのコミュニティ「スワンプ・ロック〜for more deep soul」でも読むことが出来ます。


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by obinborn | 2022-08-24 04:03 | one day i walk | Comments(0)  

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