2012年 10月 06日 ( 1 )

 

The Encore Session

 いささかの感傷があるのは仕方ないとしても、それを吹き飛ばす
素晴らしいライヴだった。感傷の理由はひとまずこれでロンサム・
ストリングスと中村まりのコラボレイトに句読点が打たれること。
そしてもう二度とステージへと立つことのない故人を想ってのこと
だったのだが、ひとつの出会いが思わぬ閃きとなるように、いつの
日にか再び創作に向き合って欲しいと願わざる得ない、そんな密度
の高い演奏が最後まで途切れることなく5日の渋谷クアトロを満たし
た。だいいち、中村自身の毅然とした表情がいい。

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 中村を含めた5人の弦楽器奏者たちが曲ごとに入れ替わり立ち代
わり各自の楽器を持ち替えていく。いくらCDを聞き込んでいたとし
ても、実際の会場で各自の様々な弦楽器を目撃し、それらの音が響
き合い溶け合う様を耳にするのは格別の体験だ。オープニングを飾
ったアーサー・スミスの「Dueling Banjos」では、千ヶ崎学による
深く沈み込むようなコントラバスを手始めに、メンバーそれぞれが
各自のソロ・パートを何気に交換していく導入部が思わず息を吞む
ほどで、ダークなイントロ部から明るくテンポある展開へと一転す
る場面も見事なものだった。後方に陣取っているため客席からは見
えにくい田村玄一にしても、こっちが気がつかないうちにペダル・
スティールからリゾネイターに持ち替えるなど局面局面での切り替
えが多彩な音色のアンサンブルを紡ぎ出していく。なおかつ曲によ
ってはカズーやジューズハープ、ハーモニカなどを取り入れるなど、
弦楽器以外の小技もアクセントになっているのだから、何とも贅沢
なサウンドスケープを吟味しつつ、優に2時間以上があっという間
に過ぎて行った。

 特筆すべきはこの日の中村まりのヴォーカルが絶好調だったこと。
一人での弾き語り、あるいは小編成の時に比べ、人数が増えるぶん
音量は大きくなるだろうが、それらの演奏に拮抗するエモーショナ
ルな喉を聞かせたことには驚いてしまった。とくに終盤に歌われた
ウディ・ガスリー曲「Hard Travelin'」での、一度ブレイクした後
の熱を帯びた歌唱はまさに圧巻。伝承ナンバー「I Am a Man of
Constant Sorrow」での男声コーラスとのコントラストも魅力的
だし、原さとしがヴォーカルが取るグレッグ・オールマンの「Mi
dnight Rider」での後方に回ったパートにさえ、他の誰でもない
彼女の”百年に一度の声”がしっかりと宿っていた。

 演目・曲順に関してはまだ大阪公演を控えているので多くは語
るまいが、新作『Afterthoughts』で新たに取り組んだ5曲は勿
論、『Folklore Session』からの主要なナンバーはほぼ演奏され
た。以前のステージでは中村のソロ・パートを用意し自作曲を歌
ったり、逆に中村を除くロンサム・ストリングスのインストゥル
メンタルの展開(例えばイアン・デューリーのコックニー・ファ
ンク曲「In Betweens」の翻訳など)もあったが、この日はとに
かくロンサムたちと中村が互いにジョイントすることに徹してい
た。そんなことからもメンバー全員がともに過ごす時間を慈しみ、
名残りを惜しんでいるようなニュアンスが何とも切なく伝わって
くる。選曲にしても桜井芳樹と中村の共作「Ghost Town Dance」
を除けばすべて異なる時代に作られた他人の曲で統一されていた
ことに、フォークロアであること、自分たちが伝承者であること
の意識と主張がはっきりと示されていたのではないだろうか。
『Afterthoughts』のなかでもとりわけ充実していたボブ・ディ
ランの初期作「Restless Farewell」が奏でられる頃には、過去
と現在が交差し合いながら次第にうねっていくような感慨を覚え
たほどだ。古い曲の新しい輝き。ロンサム・ストリングスを聞い
ていると、そんなことを思わずにはいられない。

 歳月が流れ、たとえ町が廃墟になったとしても人々の営みは
続いていく。先に触れた「Ghost Town Dance」はおよそその
ような願いが寓話的に込められた曲だが、このフォークロア・
セッションがいつの日か再び新しい季節を運び込んでくること
を信じたい。

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〜追記:東京と大阪で行われた今回のファイナル公演。セットリスト
は以下の通りです。

一部
1. Dueling Banjos
2. Worried Blues
3. Lonesome for You
4. Fishin' Blues
5. Viola Lee Blues
6. Born and Livin' with the Blues
7. Silo
8. Rocky Raccoon
9. Midnight Rider
10. Bound to Fall
11. John Henry(中村&桜井のみ)

二部
1. Cuckoo Bird
2. Going Down the Road Feeling Bad
3. Cumberland Blues
4. That Lucky Old Sun
5. Ghost Town Dance
6. I am a Man of Constant Sorrow
7. Restless Farewell
8. Hard Travelin'

encore
Heart Like a Wheel
Some Happy Day
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by obinborn | 2012-10-06 14:32 | 中村まり | Comments(1)