2012年 10月 12日 ( 2 )

 

Where the Duck?

以前から私のblogを読んでくれていた人たちには、私がと
きどきアップしていたアヒルの写真は馴染みかもしれない。
バイトの帰り道とかウォーキングの途中とかに寄り道しな
がら眺める彼(彼女?)の姿は、使い古された言葉で言え
ば日々の癒しだった。

最初こそ警戒され逃げ惑うだけのアヒルだったが、次第に
懐いてきて嬉しそうに鳴きながら私に寄ってくるようにな
った。冬の日でも夏の午後でもそうだった。人間側の勝手
な思い入れかもしれないが、犬や猫を飼っている人たちで
あれば、いや動物がお好きな方であれば、誰もがきっと賛
同してくれるに違いない。

そんなアヒルくんが姿を見せなくなったのは2011年の春
を境にした頃だった。最初こそどっかに遊びに行っている
のだろうと楽観していたのだが、日を重ねるうちに暗い気
持ちが押し寄せてきた。一体どこに行ってしまったのだろ
う?

アヒルくんの失踪と同じ頃に起こったのが、忘れもしない
大震災と福島の原発事故だった。因果関係があるのかどう
かは判らないが、私が最後にアヒルくんの姿を見たのは震
災後数日経った頃だった。いつもはぴょんぴょんと跳ねま
わったり、水面を滑らかに泳いだり、また時には悠長に昼
寝をして羽根を休めたりしていた彼(彼女)が、ひどく怯
えてうずくまっていたのが忘れられない。

震災や原発事故で私たちは多くのものを失った。それに比
べてたかがアヒルごときで、と思われる方もいらっしゃる
だろう。しかしたとえ偶然であれ、あの日を境に変わって
しまったことのひとつとして、未だに私の心に錨を下ろし
ている。それが奇想天外の話題や声高に語られるメッセー
ジではなく、普段からまさに日常の光景として接していた
ことだけに、私の心は痛んだ。大なり小なりこうした体験
をされた方が、きっと日本じゅうにいらっしゃるに違いな
い。

J.Dサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』(Catcher
in the Rye)は青春小説の古典的名作だが、そのなかでも
主人公が「冬になって池に氷が張ったら、アヒルたちはど
こに行ってしまうんだろう?」と独白するシーンは極めて
印象的だ。私も主人公に倣って思う。一体彼(彼女)はど
こに消えてしまったんだろう? と。

アヒルくんが住んでいた野原と茂みと池。その周りを今日
も私はときどき通り歩く。そしてついその姿を探してしま
う。昨日まであったことが今日はもうない。そんな圧倒的
な喪失感に翻弄されながら、私はふと無口になる。

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*Facebook本日分と同じテキストです。
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by obinborn | 2012-10-12 13:16 | one day i walk | Comments(5)  

surf's up

クーラーが止まる。扇風機が止まる。蝉の代わりにこうろぎ
が鳴き出す。そのようにして暑かった夏はある日突然終わっ
てしまった。多くの人々にとってこの季節が特別なのは、き
っと子供の頃の夏休みの記憶と分ち難く結び付いているから
なのだろう。ぼくも小学生の頃はよく両親の実家がある長野
県の諏訪へ遊びに行き、空の高さやきりりとした水の鮮度に
驚いた記憶がある。

ある意味そんな若さや無邪気さのメタファーが夏なのだろう。
それを65年までのビーチ・ボーイズに譬えてみるのも悪くな
い。好むと好まざると人は大人になり、たとえ嫌なことでも、
たとえ好きになれないことでも、社会に出れば引き受けざる
を得なくなる。

ビーチ・ボーイズが71年に残した『Surf's Up』は、そんな
苦々しさが詰まった作品だ。感傷的な「Disney Girls」には
副題として(1957)と記され、アメリカが無邪気だった頃の
追想となっているし、アルバム全体にも快活さは失われ、そ
の代わりに諦観がひたひたと染み込んでいる。ブライアン・
ウィルソンの60年代の曲に「In My Room」というひどく内
気な曲があったけれども、あの曲と同じように、浜辺で戯れ
ている若いカップルを窓越しから遠巻きに眺めているような、
そんな距離感があまりに切ない。

とくにB面終盤の「ぼくが死ぬまで Till I Die」がアルバム
表題曲の「Surf's Up」へと繋がっていく際の、波に自分が
呑み込まれていくようなイメージは、ぼくにとっては映画
『帰郷』のラスト・シーンと重なり合うほど。

ヴェトナム戦争から帰還した青年が、恋人の不実を知り、
そのことから入水自殺してしまう。そこに使われたティム
・バックリーの「Once I Was」と『Surf's Up』が重なり
合いながら、夏はある日突然終わりを告げる。

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*facebookのほうに書いた11日の文章を転載しました。
あしからずご了承ください(小尾)。
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by obinborn | 2012-10-12 02:32 | one day i walk | Comments(0)