<   2012年 10月 ( 32 )   > この月の画像一覧

 

かつてあった土地を再び訪ねる。ロンサム・ストリングス&中村まり『Afterthoughts』を聞いて

 実り豊かだった『Folklore Session』から一年ちょっと。
その続編と言うべき新作『Afterthoughts』が発表された。
”後日談”というアルバム表題が決定するまでにはメンバー
の間で幾つかの逡巡もあったらしいが、ぼくはこの一年間
のロンサム・ストリングス&中村まりの活動報告として受
け止めている。『Folklore Session』の残りテイクの蔵出
しではなく、あのアルバムが録音された伊豆のスタジオへ
とおよそ二年ぶりに赴き、五人が再び音を奏で合った成果
が、まるで日誌のように淡々と記録されているから。

e0199046_15564875.jpg


 新たに取り組んだ5つの曲に加え、ボーナス・トラック
として前作に収録されていたナンバーを昨年行われたツアー
からライヴ・ヴァージョンとして3曲蘇らせたCDが一枚。
もう一枚が今年の春に行われた新たなレコーディングの最中
から『Folklore Session』の曲を再び演奏する様子を映像
で捉えたDVD。そんな2枚組のパッケージに伺える息遣い
からも、”近況報告”といったニュアンスは十分に伝わっ
てくるだろう。思い返せば昨年のツアー・ファイナルとな
った9月の青山CAYでのステージは達成感のある見事なもの
だったが、この五人がそんな手応えを得ながら、もう一歩先
にある道筋を示そうとしているかのような願いも感じるのだ
が、松永孝義の急逝によってそれは叶わないものになって
しまった。”後日談”というアルバム・タイトルにどこか空
白感が漂っているのは、二度と戻らないそんな日々の記憶
が刷り込まれているからだろうか。

 ソングライターとしての中村まりとは別に、埋もれがち
な古い曲に光を当て蘇らせる”語り部”としての彼女に焦点
を絞る。そもそも『Folklore Session』のプロジェクトは
そういう地点から始められたものだった。中村のライヴ・
ステージに添って言えば、中盤やアンコールで必ず登場す
る幾つかのカヴァー曲を一枚のCDとして纏めてみようと
する試みだったのかもしれない。そこでどうしても不可欠
だったのがロンサム・ストリングスの創意に富んだ演奏だ
った。中村まり自身がミシシッピ・ジョン・ハートやドク
・ワトソンを範とするフィンガー・ピッキングの優れたギ
タリストであることは論を待たないが、地声を活かしなが
ら丁寧に物語を紡いでゆく歌とギターをさらに羽ばたかせ
るために手となり足となり尽力したのが音楽監督としての
桜井芳樹の存在であり、彼を筆頭に以前からともに活動し
ていた原さとし、田村玄一、そして松永孝義の四人だった。
彼らが腕達者な弦楽器奏者たちであることは勿論なのだが、
それ以上に楽器の特性をサウンド絵画のなかでトータルに
見渡すことが出来る人たちというイメージがある。

 さて今回の『Afterthoughts』だが、本編はシークエン
ス順に言えばフランク・ハッチンソンの「Worried Blues」
から始まり、グレイトフル・デッドの「Cumberland Blu
es」ジョニー・キャッシュやレイ・チャールズのヴァージ
ョンが有名な「That Old Lucky Sun」、ボブ・ディラン
の「Restless Farewell」、ブラウニー・マギーの「Born
And Livin' With The Blues」へと進んでいく内容になって
いる。桜井芳樹によるセルフ・ライナーノーツには曲の取捨
選択に関する中村との意見交換のエピソードも盛り込まれ
ているが、候補に上がりながら最終的には削られた曲も含
めて、きっと広範に及ぶフォークロア再訪だったのだろう。
こうした選曲を眺めつつCDを聞き進めていくと、久し振りに
レコード棚から引っ張り出してくるのが『ワーキングマン
ズ・デッド』だったり、『時代は変わる〜 The Times Th
ey Are A-Changin'』だったり、あるいは久保田麻琴と夕
焼け楽団の『ラッキー・オールド・サン』だったりと、寄り
道もなかなか楽しい。実際アルバムでもハイライトとなる
出来映えの「Restless Farewell」にしても、弾き語りで
噛み締めるディランのヴァージョンには作者としての強さ
があり、ロンサム・ストリングス版には彼らならではの閃
きと卓越したアレンジメントを感じるといった具合だ。

 以前インタヴューでも語ってもらったのだが、遠い時代
の他人の歌を歌う時の中村はフラットな歌い方を心掛け、
歌の主人公に感情移入するというよりは、第三者として歌
を客観的に眺めている自分に気が付くのだという。それこ
そは”語り部”あるいは歌の介在者としての必須条件であろ
う。生まれた国が違う。育った時代が違う。置かれた環境
がまるで違う。古い歌の歌い手たちと中村まりとの間には
気が遠くなるような歳月があり、埋められない距離がある。
だからといって躊躇はしたくない。だいいち我々の喜怒哀
楽というのは案外昔とそれほど変わらないものではないだろ
うか? 30年代のクラークスデイルであれ、今私たちが暮ら
している町であれ、陽は昇り陽は沈む。雨が降る日もあれ
ば、寒さに震える季節もある。むしろそうした当たり前の
営みが現代という時代ではますます見えにくく、気が付き
にくくなっているのではないだろうか? 便利さ故の不自
由という言い方はいささかステレオタイプかもしれないが、
それでもキーボードやタッチパネルひとつでいとも簡単に
他者とアクセス出来るわりに、人と人との結びつきは案外
脆く、危うくなっているのではないだろうか? 中村まり
の辛抱強く、芯があり、どこか懐かしさを運び込んでくる
ような歌声を聞いていると、ふとそんなことにまで思いは
及んでゆく。

e0199046_18554276.jpg


 いずれにしても今回の『Afterthoughts』もまた彼らな
らではの温故知新であり、かつてそこにあった豊かな土地
と人々を再訪して敬意を表しているような響きがある。そ
の温もりや久し振りの再会に触れながら微笑んでいる幾人
かの姿がくっきりと見えてくる。浮かび上がってる。

 最後にボーナス・トラック及びフッテージに少しだけ触
れておこう。作者のポール・マッカートニーより古い時代
に歌われたのではないかと思わせる「Rocky Raccoon」には、
時空が瞬時に入れ替わったような鮮やかさがあり、ブルー
ワー&シップレイの「Bound To Fall」や、キャロル・キン
グとデヴィッド・クロスビーの曲を束ねた「Snow Queen
〜Deja Vu」にはロンサム・ストリングスならではの、よ
く練られた精度の高いアンサンブルがある。そして映像が
残された後者ではコントラバスの背中をパーカッションの
ように叩いたり、弓弾きを交えたりする松永孝義の姿がし
っかりと、まるで昨日のことのように映し出されている。

e0199046_15541623.jpg

[PR]

by obinborn | 2012-10-04 16:27 | 中村まり | Comments(0)  

中尾紀久子展に行ってきた

歌い出した途端に、「ああ、この人にはかなわないなあ〜」と思う。
小手先のテクニックではなく気持ちをまるごと持っていかれてしまう無骨な匂い。
それが飯田雄一という人である。
永遠の野生児ともいうべきこの男が歌うヴァン・モリソンの「Have I Told You
Lately」などを聞くと、傷だらけの男の半生を目のまえに差し出されたような
気がして、思わず胸がざわついてしまう。

そんな飯田雄一さんをフロントにして活躍してきたのがオレンジ・カウンティ・
ブラザーズだ。ダグ・サームへの敬愛を道筋に”歩くまえに走り始めてしまった”
ようなバンドだったが、ゴツゴツとしたテックス・メックス・サウンドや、思わず
ほろりと零れてくるざらついた情感が私は好きだった。久保田麻琴と夕焼け楽団
と70年代にジョイント・ライヴを行っていたこともあって、兄弟のようなバンド
どうしだったといった印象が強い。

そんな彼らのアルバム4枚のイラストをすべて手掛けられたのが中尾紀久子さんだ。
彼女の個展が神宮前で行われていたので、10月1日の最終日にお伺いした。

e0199046_893920.jpg


実際76年の『ファースト』のアルマジロにしても、77年の名作『ソープ・クリーク
・サルーン』に映る飯田雄一と思しき人物にしても、初めて見る原画ではよりきめ
細かく筆が運ばれていてちょっと感激。そして原画のほうがより落ち着いたトーン
で統一されていたことにも何だか不思議な感慨を覚えた。

e0199046_820437.jpg


e0199046_821385.jpg


e0199046_8414445.jpg

会場に入るやいなやオレンジのギタリスト、中尾淳乙さんが声を掛けてくれて
紀久子さんを交えてしばし談笑させて頂いたのだが、原画をジャケットにする
時点で作者の思惑とは別にトリミングされてしまった部分もあったそう。

そんなこんなで絵や近況を伺っていると、私より少し年上の兄貴たちと話して
いるような気分になる。実際そのようにしてオレンジ・カウンティは慕われて
きたし、ザディコキックスやコスモポリタン・カウボーイズといった優れた理解者
たちを生み出しながら今日に至っているのだった。

話は最近の飯田雄一に戻る。この春に横浜のサムズで行われたステージの序盤で
彼はキックスを従えながらダグ・サームの「Beautiful Texas Sunrise」を歌った。
何も変わっていない。しかもこういう首尾一貫をことさら自慢したりしないどこ
ろか、この男はいささかの照れ笑いを見せる。とことん陽気な主人公たちや酒場の
賑わいなど、絵に描いたようなテキサスの光景を歌い込んでいくわりに、脆さも
ある。そんな微妙なニュアンスを含めて私はオレンジ・カウンティが好きなのだ。
そして無冠の帝王たちにはでっかい夕陽がとてもよく似合う。

e0199046_929038.jpg

[PR]

by obinborn | 2012-10-02 09:30 | one day i walk | Comments(0)