「レイナ」のような慈愛に満ちた歌があった。「インディヴィ
ジュリスト」のような切迫感ある曲もあった。そんな佐野元春
&ホーボー・キング・バンドのライブを29日は東京ビルボード
にて。5年目に入る恒例の”Smoke and Blue "のパフォーマン
スは、コヨーテ・バンドを率いた普段の荒ぶるロックとは対照
的にシックな編曲が施され、リラックスしたムードに包まれる
のが特徴的だが、今夜も新旧のナンバーを交えながら佐野元春
という稀有なアーティストのこれまでの歩みを照らし出してい
く。都会の情景をスケッチしたナイーヴなバラードもあれば、
ラップ的な言語感覚を生かしたシニカルなビート・チューンも
ある。それら全てが等しく届く。聞き手たちがやり過ごしてき
た歳月に寄り添うように響く。演奏面でのクライマックスはラ
テン・ビートを大胆に導入した「観覧車の夜」だっただろうか。
"Smoke and Blue”の企画で必ず準備される新曲に関しては、
今回は世相をややユーモラスに反映させた「迂闊なことは言え
ない」が初めて登場した。
終演後は佐野さんと談笑。彼との久しぶりの再会が私は嬉しか
った。「世知辛い世の中ですし、まるで早い者勝ちのように政
治的なメッセージを直截に投げかける人もいます。それでも佐
野さんは音楽が持つ抽象性や想像の領域に賭けていますよね」
そんな問いを発したら、満面の笑みが返ってきた。
▲ by obinborn | 2017-11-29 22:11 | rock'n roll | Comments(2)